大正12年9月25日

更新日:2023年09月25日

助役日誌

9月25日(火曜日)、午前8時30分出勤。

本日より戸籍謄抄本事務に従事。

午後2時半頃、陸軍大将の山梨半造閣下が震災の慰問のため来磯され、町長に面談、挨拶された。町長から震災被害の状況を説明された。

震災以来の戸籍訂正に従事する。

9月1日震災当時の概況

全潰家屋 半潰 土蔵全潰 破損屋
387 262 99 590

内訳

  家屋全潰 半潰 土蔵
高麗 6 9 8
化粧町 6 2 -
山王町 8 13 4
長者町 9 1 1
神明町 26 8 4
北本町 33 11 6
南本町 24 15 18
北下町 14 23 10
南下町 11 12 12
台町 19 43 8
裡道 3 5 1
茶屋町 21 12 5
東小磯 23 1 10
西小磯 17 12 12

午後4時10分退庁。

大磯警察署の日誌

9月25日(火曜日)晴

署員の召集
午前8時より事務に差支えのない範囲で、各駐在署員・その他署員を2班に分けて、震災後初めて署員を召集して、署長から訓示した。

「震災後、最早20数日が経過して、治安はやや回復し、住民においても震災当時の応急処置から、現在は今後の生活、その他に対する復興計画を立てつつある。警察署の事務も震災のための応急、臨時のものが多かったため、統一に欠けるものがあった。署員は激務・過労から品性を顧みる余裕も無かった。市民もまた非常時にあり、警察を信頼してくれていたため、何ら批判されることも無かった。今回の大任に尽くしつつ、住民の感謝と信頼と威信とを持ち続けることには、もちろん、署員の努力によるところが多い。しかしながら、今や、市民の警察に対する目は元の状態に戻り、少しの油断も許さない状況である。今後しばらくは、治安の回復・事務の統一・規律の順守・品性を良くすることに心掛け、一層自重し、身体を健康に保つと共に、些細な事から非難や誤解を招いて信頼を失い、今までの努力を水の泡にしないよう、身をもって厳格にし、住民に対しては親切に、そしてよく己を捨てて、市民のためにますます優良な警察官の本領を発揮されるように望む」

1 犯罪の予防
災害による混乱を利用し、強盗などが発生しやすいため、警戒することはもちろんのこと、対策を住民に督励、注意喚起して、被害を未然に防ぐよう努力すること。

2 火災の予防
電灯不足による代用として、いろいろな灯火を使用しているため、火災が発生するおそれがある。火災が発生すれば、人びとの不安が増し、ようやく回復しようとしている秩序を乱す悲劇に見舞われる。住民各位に警告を与えると共に、皆、十分に注意すること。

3 暴利の取締り
震災による物資不足などを好機として、もうけを狙う悪徳商人がいる。震災発生当時からこの点を憂慮して、鋭意努力、対策してきた。現在までさし当たり被害は大きくなっていないが、最近になって管内では少し増加傾向にある。これらの不道徳な悪徳商人に対しては、ためらわずに厳重な取締りを励行し、検挙摘発に努め、このような商売がなされないよう住民の安泰をはかること。

4 飲食物の取締り
混乱の最中、被災者の飢えに乗じて、健康を害するような飲食物を販売している商人がいるとの噂がある。感染症の流行の時節、これらの視察を最も厳重に励行すること。

5 警察が取締る対象の各種営業者について
各種営業者は治安維持や治安の回復に大きな影響を及ぼすため、適切な取締りを必要とする。料理店・飲食店・宿屋・芸娼妓や置屋・貸席・銭湯・理髪店・牛乳搾取販売人・馬車・人力車・自動車の営業者をはじめ、各種営業者に関しては、これらの取締り方針を具体的に訓示すること。

6 自警団の設立
戒厳令による軍隊の駐屯は一時的なもので、近日中に引揚げとなる話がある。今後における各種犯罪、その他の予防警戒に対し、警察官は全力を尽くしてその任にあたることはもちろん、住民もまた自覚をもってその予防を期する必要がある。その方法として、自警団を設けることが最も効果があると認められる。各位はよく住民にその必要性を力説、勧誘して、至急、別紙の趣旨書に基づいて完全な自警団の設置に努力すること。

7 各種事項の調査
施設の参考上必要となる次の事項の調査を行い、来る10月3日までに報告すること。

  1. 篤行者:金品の寄付または震災当時に特別の働きをした、または警察官に援助して活動したなど、すべて奇特な行動をした者は、全て具体的な事実を挙げて報告すること。
  2. 管内の回復事業:現在の復旧の状況及び将来の復旧事業の予定やその意見を、交通機関・道路・橋梁・工場・銀行その他の金融機関・一般商業・農業の項目に分けて報告すること。
  3. 警察・軍隊・郡町村役場吏員等に対する一般市民の意見を、非難される事項と賞賛される事項の2項に分けて調査すること。
  4. 諸物品(米1升/砂糖1斤/しょう油1升/みそ1貫目/杉四分並板1枚/中釘100目/大豆1升/大工・石工・ブリキ職・鳶職・雑役・人夫の日当/荷馬車1台の1日雇賃金)の価格を調査すること。
  5. 医師・看護師の不足の有無/困窮者の状況及びその救護の状態/失業者の具体的な状況/自己の職業上の功績と認識する事実詳細を調査すること。

流木窃取犯の検挙
流木の窃取犯人がいるとの話を聞き、平根巡査部長・坂本刑事は、午前8時30分から平塚町方面へ出張した。捜査の結果、3名を検挙した。

戒厳司令官の来磯
戒厳司令官の山梨陸軍大将が、午後2時に来磯された。署長は部内の災害の状況・救済事業・その他を詳細にわたって報告した。

銀行の開業
関東・大磯・駿河の各銀行は、震災後休業中であったが、ほぼ整理を終えたため、本日午前9時から開業する。

解説

注意

記事をお読みいただく上での注意点は、大正12年9月1日の記事にまとめましたので、ご覧ください。

山梨半造陸軍大将が、震災慰問のために来磯しました。山梨は、大正10年(1921)から陸軍大臣を務めていましたが、関東大震災が発生した翌日の9月2日、山本権兵衛内閣が組閣されたことにより退任し、9月20日から関東戒厳司令官に就任しました。甘粕事件のために、福田雅太郎関東戒厳司令官が更迭された後任になります。町長から、山梨関東戒厳司令官へ、被災状況の報告がなされました。

助役日誌に、9月1日の被災状況の報告がありますが、家屋の被害状況がわかります。

警察署の日誌には、署長が署員を集めて今回の粉骨砕身の震災対応に対し、ねぎらいの言葉を述べています。軍隊が撤退した後も、治安のために自身の健康に注意しながら、責務を果たして欲しいとのこと。当時は消防・衛生も警察の業務で、署長の注意事項も多岐にわたっています。

  • 甘粕事件:関東大震災直後の1923年(大正12年)9月16日、大杉栄と作家の伊藤野枝、大杉の甥である橘宗一(6歳)の3名が、憲兵隊の特高に連行され、憲兵隊司令部で憲兵大尉の甘粕正彦等に殺害された事件。
  • 山梨半造:平塚市下島の出身。吉田茂と同じ藤沢の耕余塾出身。「山梨軍縮」と言われる、加藤友三郎内閣の陸軍大臣の際、1922年(大正11)8月と1923年(大正12)4月の2度にわたり、日本陸軍史上初の軍縮を断行した。

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