大正12年9月18日

更新日:2023年09月18日

助役日誌

9月18日(火曜日)、午前8時出勤。

いつもの通り米の廉売をし、その他雑務に忙殺された。

午後6時頃、帰宅。

大磯警察署の日誌

9月18日(火曜日)晴

無料診療
佐藤技手は、国府村内の無料診療並びに衛生の注意喚起と、健康状態の視察をした。

東部方面の視察
署長は、午後3時より平塚方面及び馬入川の交通を視察、署員を監督、激励し、午後6時に署に帰った。

保安課長の来署
本県の小山保安課長は、部下3名とともに午後6時に来署し、被害状況、施設計画等の視察をし、一泊した。

感染症予防の警告
感染症の予防並びに避病舎の設備について、本日、再度各町村長に次の書面を送り、万一の時の準備をした。

「粛啓
未曾有の震災にあたり、各種公共施設のほとんどが破壊され、管内避病舎等もまた同様の被害を受け、近く復旧する見込みはないと聞いている。すでにご承知のとおり、京浜地方には各種の伝染病が流行し、まん延のおそれがあるという話も聞く。震災、その他災害の後、衛生状態の不備により感染症による疾患が発生することは、歴史の示すとおりで、人命に被害をもたらす災害は、このような病が発生することが多く、予防は一時も忘れてはならない。当署は先般、衛生隊を組織し、無料診療や巡回診療を行っているが、何分人員と経費の不足のため、徹底ができていない。この際、特に貴下のご努力により、管内の衛生状態を速やかに改善するとともに、万一、病気が発生したときに対応するため、避病舎、その他の設備を至急完成させていただきたく、ご依頼申し上げる」

火災予防の注意喚起
火災予防警戒のため、次の警告をした。

「石油、灯火、ろうそく等の使用には次のように注意し、火災の予防に努めること」

  1. 提灯、その他の灯火は、家の者がいない場所には置かないこと。
  2. 燃えやすい物の近くに灯火を置かないこと。
  3. 夜中、就寝前には必ず消灯すること。

盗難予防の警告
盗難予防の警戒について、次の警告をした。

「盗難、その他の犯罪の予防は、軍隊及び警察で極力取締っているが、この際、各人は自警自衛によって、これらの被害を受けないように努力すること」

流木拾得者の注意に関する掲示
この度の水災で、平塚・須馬・吾妻方面の海岸地帯には、馬入・酒匂川からの流木が山のように流れてきている。管内要所に次の掲示をして、違反者の予防並びにこのことに関する注意をまとめる。

「長さ6尺(約180センチメートル)以上の流木を拾得した者は、すぐに町村役場に届出て指示を受けること。届出ない者は厳罰に処する」

駅長及び復旧工事監督官に対する警告
震災後、鉄道復旧工事のため、当地へ多数来た鉄道雇員や作業員らが、深夜大きな声を出したり、歌を歌ったり、あるいは酔って通行人に対していたずらをする者がいる。現に制服を着用したまま、酔って乱行をした者もいる。住民が不安を感じているため、駅長並びに復旧工事監督官に対し、これらの取締りについて次の書面を提出して依頼した。

「粛啓
当地方の震災後の治安は、最近は著しく改善して喜ばしいことと思われる。特に鉄道復旧工事のため、多数の作業員が派遣され、夜を徹して回復に努められていることは、住民と共に、私たちも深く感謝している。しかし、聞くところによると、多数の労働者の中には不心得の者がおり、酒に酔い、深夜に大声を出したり、歌を歌ったり、または付近の田畑の野菜を盗み、女性にいたずらなどを加える者がいるという。さらに目立ったことは、制服を着用した従業員数名が一団となり、酔って大声を出して歌を歌い、さらには通行人にいたずらを加え、警官に厳しく注意を受ける者がいるということである。このような行為は、旅客と地元住民の交通の便を良くするため努力をしているにもかかわらず、その努力を無駄にしてしまうことになるとともに、住民に不安を感じさせていることは、大変残念である。ついては今後、これらの工事に従事する従業員その他には、被害を受けている住民の実情を伝え、不届きな行為がないよう、特別のご配慮をいただきたく、ご協力をお願いしたい。 敬具」

上京者への対応
震災当時、管内各別荘その他に滞在中の東京方面在住の者の中で、男性については治安が回復し、鉄道の単線運転が開始された後は、その多くが帰京したが、女性は汽車の混雑のため帰京していない者が多い。茅ヶ崎の仮駅長に交渉し、一番列車に限り20名程度の者を特別に、危険がないよう配慮して乗車させることについて承諾を得た。署員を警戒のため派遣することにし、この事を書面にして一般へ通知した。

「このたび、当署は、ご帰京の皆様の便宜を図るため、鉄道当局の内諾を得て、茅ヶ崎の仮駅発一番列車(午前4時59分)に、特別に20名程度に限り、混雑しないように乗車できる列車を手配した。この列車には、万一の危険と混雑を防止するため、当署員1名を派遣することにする。当列車に乗車を希望される方は、前夜中に当署まで申し出ること」

署員の出浜
原田警部補を午前5時、事務打ち合わせのため県警察部に出署させた。午後8時に帰署。この署員を派遣させるのは、3回目である。

署員の昇進
北田警部補は、本日付けをもって警部に昇進、横須賀署在勤となるが、当分当署に勤務するよう通知があった。

解説

注意

記事をお読みいただく上での注意点は、大正12年9月1日の記事にまとめましたので、ご覧ください。

本日は警察署の日誌にたくさんの新しい内容が記述されています。その中から、心配なこととして、京浜地方では感染症が流行し、まん延の恐れがあるという情報があったことです。管内に対して衛生状態の改善と、避病舎施設の復旧を急ぐよう協力を要請しました。災害後の衛生環境の悪化は、簡単に感染症を広めてしまいます。大きな二次災害とならないよう、警告と早急な対策を要請しました。

もう一つは、駅長に対して文書を届けていることです。現在、平塚駅と大磯駅では、平塚駅長が大磯駅長を兼ねていますが、この当時は大磯駅には大磯の駅長がいました。この文書は大磯駅長に対して出されたものと考えられます。内容は、鉄道工事のため来磯した工事従事者の中に、酒を飲み、迷惑行為をする者たちが出てきており、地域住民に不安を与えている現状を伝え、注意を促すものです。

流木についての注意も出されています。三日前の豪雨により、海岸にはたくさんの流木が流れ着いたようです。長さ約180センチメートル以上のものに関しては、町役場に届を出して指示を受ける必要があり、無断の持ち帰りは厳罰の対象となりました。拾得した流木の中には、高価な材木や立派な柱等があったと思われます。届出た者にはどのような指示があり、その後どのような取り扱いをしたのでしょうか。

助役日誌には雑務に追われたとの記載しかありませんが、流木の件でさらに雑務が増えたのかもしれません。

大きな出来事としては、震災後、東京方面に帰ることができずに大磯に残された女性たちに対して、上京できる機会をつくり、その希望者を募ったことです。主に大磯に別荘を持つ貴婦人たちが対象、本邸に帰るための対策です。まだ、大磯平塚間の線路は復旧できておらず、茅ヶ崎の仮駅から朝一番の汽車に乗せるため、婦人たちに警察官を付き添わせ、大磯から東京まで安全に送り届ける必要がありました。別荘地大磯ならではの配慮の仕方に、特別なものを感じます。

震災後の混乱の中、社会の安全と治安のために対処しなければならないことがどれだけ多かったか、警察署の任務の重さが伝わってきます。

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