大正12年9月16日

更新日:2023年09月16日

助役日誌

9月16日(日曜日)、午前8時出勤。

本日も米の廉売をした。

本日、庁舎の物置小屋を取り壊すため、書類を片付けた。

昨日、ろうそくを県から受け取るため出張した長者町の青年団員3名は、馬入川が氾濫したこともあり、戻っていない。心配である。

その他の業務に忙殺する。

午後8時頃、帰宅。

大磯警察署の日誌

9月16日(日曜日)晴

水防警戒員の引揚げ
午前7時、馬入川が少しずつ減水し、天候も回復した。危険な状態ではなくなったため、原田警部補らの応援員は引揚げた。

渡船の開始
馬入川が減水して危険がなくなったため、午前10時から渡船を開始させた。

不当賃金の請求者に対する説諭
大野村四之宮の者が、不当な賃金を請求したため、厳重に戒め、請書を提出させた。

巡回診療
佐藤衛生技手・吉田巡査の巡回診療班は、大磯町の巡回診療を終了した。

庁舎の応急修繕
先日以来、消防組員、その他の特志者の献身的な活動により取り片付け中の庁舎は、本日から当署から職人1名、作業員2名を雇い、漏水、その他の個所の応急修理を開始した。

貸座敷営業者に対する戒告
大磯町の貸座敷営業者について、鉄道復旧工事などのために大磯に来た作業者らに対し、 営業活動をしているとの風評がある。そのため、営業者を呼び出し、厳重な訓戒を与えた。また、各種風俗営業者に警告した。各花柳営業者及び宿屋営業者は、最近鉄道復旧工事、その他のため大磯に来た土工らを客とし、贅沢な飲食物を提供し、または風紀を乱す疑いがある者が出てきていることを聞いたため、各組合に対して厳重に注意するとともに、次の方針に従って営業するよう厳達した。

  1. 各花柳営業者は、全て開業を届出なければ、営業を開始してはならない。
  2. 開業届は、なるべく組合にて取りまとめて提出すること。
  3. 貸座敷営業者及び芸妓営業者は、戒厳令廃止後でなければ開業を許可しないため、なるべくその時に届出ること。
  4. 震災のため、客室その他を変更する時は、変更願いを提出した後でなければ、客室を使用しないこと。
  5. 芸娼妓が死亡して廃業し、または他に移った者がいる時は、速やかに届出ること。
  6. 名義の如何を問わず、歌舞音曲の類は許可を受けた後でなければ絶対に行わないこと。
  7. 宿泊及び飲食等は実費通りの営業をし、暴利を貪るようなことはしないこと。

二宮・秦野交通機関の開通
地震以来、軍隊及び地元住民の手によって回復工事に従事してきた二宮・秦野間の道路がようやく復旧した。明日17日朝より乗合自動車は全線を、軽便鉄道は吾妻村一色まで開通することととなった。

震災時の混乱に乗じて罪を犯した者の検挙
吾妻村二宮郵便局の局員は、二宮局長の150円為替券をひそかに盗み取っていたため、検挙し、送致した。

小火発生者に対する厳戒
前夜午後12時頃、大磯町南本町において、灯火の消し忘れにより小火が発生したとの風評を聞いたため、取り調べたところ、小火の程度にもならず、単に提灯を燃やした程度であったため、注意のみとした。

勤務の変更
全署員には9月1日の地震以来、全く帰宅を許可していなかったが、最近になり状況が少しずつ回復してきたため、一昨日14日の夜から全員を一日おきに、午後8時から翌午前7時まで帰宅して休養させることとし、その日の夜から実施しようとしていたが、馬入川が氾濫し、堤防が決壊したことによって浸水し、これに対応するため、帰宅を中止した。翌15日も続いて帰宅を見合わせていたが、 本日になり浸水するおそれがなくなったため、各家庭においては、半月もの長い間放置していたが、家を少しでも整理できるように、次の方法によって半数ずつ、午後8時から午前7時までの間、自宅での休養を許可することとする。

  1. 本署警部補・巡査部長各1名は一日おきに帰宅する。
  2. 高等会計・内勤刑事各1名と署在員2名は、交代で組ごとに一日おきに帰宅する。
  3. 平塚警部補派出所の北田警部補は、斎藤部長と交互に一日おきに休養し、本署特派巡査4名及び平塚町内・須馬村・大野村の各駐在所員も交互に休養する。

解説

注意

記事をお読みいただく上での注意点は、大正12年9月1日の記事にまとめましたので、ご覧ください。

この日は、やっとですが震災で壊れた庁舎の取り壊しを行うため、小見助役たちは大事な書類の移動作業をしています。そして小見助役は、ろうそくをもらうために県に出かけた青年団員3名が、前日の豪雨のために帰って来ないこと、馬入川(相模川)が決壊し、危険な状態であったことから、無事なのかどうかを心配しながら、一日いろいろな仕事に追われていました。

警察署の日誌によると、馬入川の減水により午前10時から渡船が開始されていますが、青年団員3名は大磯に帰って来ず、前日の足取りが不明です。読者としても心配です。

警察では、地域の風紀を乱すような営業の取締りや、どさくさに紛れてもうける業者の取締りの強化を続けています。残念ですが、どのような状況下でもお金を優先する人間の性が見え隠れします。

この日、署員の勤務変更が知らされました。2日ごとですが、やっと家に帰れる勤務体制となり、16日からの実施については、署員の喜び、そして、その家族にとっては待ちに待った嬉しいニュースになったことでしょう。

どんなに頑張っても気力や体力には限界があります。ギリギリの善処策でした。

100年前のこの日は9月第3週の日曜日。震災前の助役日誌では、「日曜日、休日」と書かれるところ、震災後の助役日誌には、原文では日曜日の曜日の記述がありません。町職員は震災以来休みなく対応に追われています。最近の記述の少なさは、書ききれないほどやる事が多かったことを物語っています。

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