大正12年9月3日

更新日:2023年09月03日

助役日誌

9月3日(月曜日)、午前8時出勤。

相変わらず事務に忙殺。本日は、死者の火葬などに忙殺した。鉄道事故負傷者からの要望により、白米5升(約7.5キログラム)のにぎり飯を支給した。

本日から、役場吏員一同と共に、ほとんど徹夜出勤した。

大磯警察署の日誌

9月3日(月曜日)晴のち雨

真情の発露
午前7時頃、土沢村(現・平塚市土沢)駐在所の小倉巡査は、山田下吉沢消防組頭と小巻中吉沢消防組頭を同伴し、震災後の状況報告と、ますます激しくなる朝鮮人横行説の真偽を確かめるため、初めて出署した。署前の仮事務所で署長の姿を見るや感極まって号泣し、署長の両頬にも涙が流れるのを見た。同席していた両消防組頭、坂本・水島・神谷の各巡査もまた共に嗚咽した。

報告
本日中、その後の状況を3回書面にして、それぞれ特使を使って報告した。

巡視
斎藤巡査部長に東部方面を巡視させ、署員を監督し励ました。署長は午後11時、平塚・須馬方面を巡視して各員を激励して、翌午前3時に帰署した。

警告
被災者救護のため、貯蔵米の保管・売り惜しみ・暴利をむさぼるような事は絶対にしないよう、再度、各営業者及び貯蔵業者に警告した。

応援の依頼
在郷軍人・青年団・消防組員への警告は、平塚・須馬方面を除き不充分であるため、各町村長及び団長に次の書面をもって警戒を依頼した。

<警戒依頼>
「東京・横浜方面の被害が思った以上に甚大であり、横浜では監獄を開放し、多数の囚人が各地方に避難したため危険だとの風評が多く、実際に昨夜のように解放囚人を検挙する状況になった。このような時は、警戒に落ち度はない、心配するようなことは起きないなどとは思わず、皆、連日の警戒で疲労が甚だしいとは思うが、なお一層警戒に努めることをお願いする」

戒厳令と徴発令の発布
東京府下及び神奈川県下に対し、本日戒厳令並びに徴発令の施行を、岡野司法大臣の所に来られた人から通知があった。直ちに管内に掲示した。

被害の状況の掲示
管内及び付近の状況、及び京浜地方の災害状況を各要所に掲示し、一般の人びとが利用できるようにした。

電話の開通
海軍火薬廠との連絡を便利にするため、同廠と平塚警部補派出所との間に、特設電話を架設した。

収容の開始
本日より、平塚町の民家と劇場「旭座」を無料収容所とし、避難者の収容を開始したところ、約200名を収容した。

証明書の交付
各地方に赴く者や通行人で、日本人であることの証明を求める者がとても多く、午前中に100余名を数えたので、本日より、謄写版刷り半紙四ツ切の証明書を作成し、当署と平塚警部派出所に置いて、申込者に対して交付することにした。

助勤署員の横浜帰署
午後3時頃、以前から避暑地取締りの応援のために当署で勤務中だった、加賀町署巡査・関口清次郎、戸部署巡査・小林子之吉、伊勢佐木町署巡査・中村敬仲を帰署させた。

暴利者に対する注意
暴利または売り惜しみなどに関しては、すでに警告又は掲示してあるにもかかわらず、そのような行為に及んでいた者がいたため、5名を厳重注意して始末書を書かせた。なお、大磯町内の野菜類販売業者を集めて、廉売するよう諭した。この廉売に応じる者は、当署の嘱託を受けて廉売をすることについて掲示してよい。数名がこれに応じ、直ちに廉売を開始した。

仮泊所の収容状況
収容人員300名、炊き出し米5斗余り(約75キログラム)

寄贈品
午後1時頃、大磯町・村山由太郎から、藁草履(わらぞうり)300足が通過する避難者用として寄贈されたので、必要な者は自由に持っていくよう掲示し、通行人に贈与した。午後10時頃、大磯町・新杵菓子店の斎藤平吉と同町・峰岸幸吉から、菓子それぞれ2箱の寄贈があり、宿泊中の避難者に配布した。

平塚派出所仮事務所の設置
平塚町警部補派出所前の道路上に、警部補派出所仮事務所を、午後11時に設置した。

解説

注意

記事をお読みいただく上での注意点は、大正12年9月1日の記事にまとめましたので、ご覧ください。

9月初旬は、まだ気温が高い季節です。日誌からは遺体の火葬・埋葬の手配を急いだ様子が見て取れます。

9月1日の記述によれば、地震による列車の転覆で救護した負傷者は、36名いました。震災発生後、警察署は設置した宿泊所に収容した避難者への食料配布に苦慮していますが、鉄道事故負傷者への対応は役場が担い、取り急ぎできるだけのことをしたようです。短いメモのようなこの日の記述からは、小見助役や吏員たちが、さまざまな問題に必死に対応している様子が感じられます。

警察署日誌では、広まっていくデマを抑え、人々の不安をできる限り減らそうと、身分証明書を発行したり、管内町村長に対策の応援を依頼するなど、必死で対応している様子がわかります。混乱に乗じて商品の売り惜しみや暴利を得ようとする者がいる一方で、廉売(安売り)に協力する八百屋、商品の菓子や手作りの藁草履を寄贈する者がいたことも記録され、助け合いの様子が伝わってきます。

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