大正10年2月2日

更新日:2021年02月02日

2月2日(水曜日)、午前8時20分出勤。

今日も、戸籍謄抄本事務に従事した。

午後1時から、大磯小学校において通俗教育会講演があり、町長が参加した。

本日、午前中に横浜へ出かけた添田氏に、電話で照会したが要領を得なかった。

午後4時頃から、本県水産課長の仙川技師が担当している定置網鰤敷の件について、大磯漁業組合と西小磯代表者を町役場へ召集し、意見を述べることになっている。午後5時頃から、仙川技師が来場したので、町長と共に立ち合い、大正3年6月9日に締結した漁業組合と西小磯との間で交わした仮契約を廃し、一時金を14,000円とし、それを1か年につき3,500円ずつ、向う4か年にわたり分割して西小磯へ支払うこととなった。午前1時30分に覚書を作り、各自署名をして同2時に散会した。

明日3日に、そのうちの1通を郡長に提出すること。

解説

大磯小学校で講演が行われました。「通俗教育」とは、学校教育以外の一般大衆を対象とした平易な教育を意味する言葉で、現在の「社会教育」にあたります。どんな内容だったのかは書かれていません。

役場では、定置網漁の件で、県の水産課長を交えた会合が開かれました。長時間の協議の末、大磯漁業組合から西小磯地区に支払われていた分配金について、今の契約を変更する覚書を交わすことになりました。

ここに書かれた「仮契約」とは、大正3年に交わした10年契約で、あと4年続くはずでした。見直すことになった理由は、おそらく前年末に大磯鰤敷網組合が丸越漁場と合併して新会社となり、それまで漁業組合に支払っていた漁場使用料の金額が変わったためと思われます。分配金の仕組みや詳細については、以下の「豆知識」をご覧ください。

この日、議決したのは夜半過ぎです。紛糾したのが目に見えるようです。

豆知識:大磯における定置網「鰤敷」と分配金について

大磯で、定置網漁(鰤敷といって主にブリを狙う)が始まったのは大正4年(1915)1月でした。それまで主流だった地引網に代わり、漁獲量が大幅に増えて莫大な利益を生む定置網漁は、当時の大磯(特に漁業関係者)にとって、大変魅力的な漁業でした。

大磯沖の漁業権を持ち、漁師たちを取りまとめていた大磯漁業組合が、定置網漁の導入を決定し、県に申請したのはその前年の大正3年(1914)6月。同時に、実際に漁を行う事業者として、大磯鰤敷網組合という会社組織が設立されました。大磯鰤敷網組合は、漁場の使用料(場所代)を漁業組合に払って漁をします。この使用料に関する契約は、県への申請にあたり仮契約として提出され、同年11月に県の許可が下りました。内容は10年契約で、大磯鰤敷網組合は漁業組合に前半5年間は毎年3,000円、後半5年間は倍額の6,000円を払うことになっていました。

そして、この漁業組合に渡る使用料は、さらに、大磯町と西小磯地区にも分配される契約になっていました。その内訳は、漁業組合48%、大磯町14%、西小磯地区38%です。つまり、この契約では、前半5年間では、年間3,000円を、漁業組合1,440円、大磯町420円、西小磯地区1,140円と分配し、後半5年間では、年間6,000円を、漁業組合2,880円、大磯町840円、西小磯地区2,280円と分配することになっていました。

西小磯地区に多くのお金が渡った理由は、定置網の設置によって地区の漁業に少なからず影響があることが想定され、補償の目的があったのではないかと考えられます。

その後、大磯のブリ漁は、鰤敷網組合の定置網ばかりでなく、地元以外の業者(当初は、横浜の佐藤勘次郎が契約、のちに東京芝高輪の岩田泰輔へ売却)も大型定置網で参入し、丸越漁場と呼ばれ、共に隆盛を誇りました。しかし、次第に漁獲高が減少し、第一次世界大戦の終結に伴う恐慌と物価高などの影響を受けて、業績が悪化してしまいます。その結果、大正9年(1920)12月、大磯鰤敷網組合と丸越漁場が合併し、新たに相模漁業株式会社(社長・郷土久蔵、専務取締役・大橋宇左衛門)が設立されました。

この合併により、新会社・相模漁業株式会社は、大磯鰤敷網組合が大磯漁業組合と結んでいた契約を改定し、新たに5年契約として、漁業組合に支払う使用料を、1~4年目に毎年9,000円、5年目に12,000円としました。

この変化に伴って行われたのが、この日、2月2日に、町長と県水産課長が立ち合った上で開かれた、漁業組合と西小磯地区の会合です。決議された新たな分配金額は、1年あたり3,500円で、以前の契約による西小磯地区の取り分2,280円より増額することになりました。

日誌にはこの後も、分配金や定置網の所有権について、関係者らが度々協議している様子が書かれています。

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