1-1 徴兵制のはじまり

更新日:2021年10月22日

国民皆兵と徴兵令

江戸時代は職業軍人である武士階級が軍事を担っていたが、明治政府の成立以降、武士階級が解体され、軍事制度の近代化とともに国民皆兵の理念がうたわれるようになった。1872年(明治5年)の徴兵令詔書及び徴兵告諭の発布、さらに翌年の徴兵令制定により、徴兵制(海軍など一部は志願制を採用)を基礎とする軍隊が形成され、国民のうち17歳から40歳までの男性に兵役が課されることとなった。

国民皆兵とはいいながらも、軍の基本方針は少数精鋭の部隊を平時に維持し、戦時にすばやく兵士を召集し、軍隊を戦時体制に移行させる体制を整えることであったため、徴兵検査を受けた者のなかで、実際に軍隊に入営した者は一部にすぎない。

徴兵検査では、満20歳の男性が一斉に検査を受け、体格・健康状況などに応じて甲・乙・丙・丁・戊種に振り分けられる。このうち、甲ないし乙種の一部から、くじ引きによって現役兵となる者が選ばれる。

現役兵となった者は各地に駐屯する部隊に入営し、3年間の訓練を経たのちに予備役・後備役へと編入され、平時は地域で暮らしながら、戦時の際には軍隊に召集される在郷軍人となった。

徴兵制度

徴兵制度と町村役場

徴兵適齢届

徴兵適齢届 1896年(明治29年)

こうした徴兵制と軍隊への動員を下支えしたのが行政機関であり、各地域においては郡役所と市町村役場が主たる役目を担った。役場で行われる徴兵・動員など一連の業務を兵事事務という。戦前の旧大磯町役場の文書にも、兵事に関連する資料が残されている。

徴兵検査は毎年行われ、事前に壮丁(徴兵検査の対象となる満20歳の成年男子)がいる家の戸主は、「徴兵適齢届」を役場に提出する。一方、役場でも、「壮丁人員表」「徴兵壮丁簿」を作成し、これらをもとに、徴兵検査の受検者を決定した。

徴兵令施行後、足柄県では、小田原宿の旧本陣であった清水家宅で初めての徴兵検査が行われた。このときの大磯町域からの徴兵人員は不明である。

なお、陸軍の場合、基本的に師管区と呼ばれる徴兵区域から徴兵され、各部隊に入営する。現在の大磯町域は当初東京鎮台の第1師管区に属し、1888年(明治21年)の師団制導入以降1907年(明治40年)の師管区改正まで同様の管区で、第1師団の歩兵第1聯隊(東京赤坂に所在)が主な入営先となっていた。

徴兵忌避

徴兵令制定以降、西日本を中心として、「血税一揆」と呼ばれる徴兵制に対する大規模な反対運動が各地で勃発し、それらが武力鎮圧されて以降は、徴兵令の免疫条項を利用した徴兵忌避行為が全国に増加した。大磯・国府地区では大きな騒動はなかったが、個人的な徴兵忌避行為と考えられる事例がいくつか起きている。

 

逃亡御届

逃亡御届 1881年(明治14年)12月1日

1882年(明治15年)12月1日に書かれた「逃亡御届」と表題のついた文書は、徴兵逃れを行った人物(Aとする)の実兄が本籍地の戸長に提出したもので、Aは徴兵検査の対象となっていたにもかかわらず、徴兵検査に出頭せず、横浜で消息を絶った旨が記されている。

この時期は、戸主ないし長男であれば徴兵の対象外であったため、Aも逃亡前に、本家から分家することによって戸主となり、合法的に徴兵を逃れようとしていた。しかし、当時、徴兵忌避を意図する分家・養子縁組の増加に伴い、免役条項に該当するかどうかの審査は徐々に厳しくなっており、さらに翌年の1883年(明治16年)の徴兵令改正により、ほぼすべての免役条項が撤廃された。

Aの場合も、1881年(明治14年)2月の段階で、戸長から郡長に、本人が徴兵免除者に該当するか上申書が提出されている。結果として、Aが徴兵検査を受検せずに逃亡した事実から、免役条項に該当しないと判断されたことがうかがえる。

西南戦争

1877年(明治10年)2月に西南戦争が勃発し、大磯・国府地区でも、兵士が多数動員された。

国府本郷村の吉川助次郎の場合、1849年(嘉永2年)生まれで、1874年(明治7年)25歳のときに徴兵検査を経て臨時徴集され、後備軍で歩兵として3か月の訓練を受け、一度は満期除隊となっていた。しかし、吉川は西南戦争で再度補充兵として召集され、東京鎮台歩兵第1大隊第1中隊に入隊。九州各地を転戦し、西南戦争終結後に収容先の長崎病院で死亡した。

このほか、大磯・二宮地域で4人が西南戦争の際に戦病死しており、彼らの慰霊のため、中川良知(りょうち)、小島壮三、宮代謙吉ら大磯の有力者たちが、愛宕神社境内に慰霊碑を建立した。

愛宕神社忠魂碑

西南戦争戦没者忠魂碑(愛宕神社境内) 1879年(明治12年)7月建立

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