ウェブ講座 吉田茂の手紙を読む <その2>

更新日:2021年07月02日

大磯町郷土資料館(旧吉田茂邸)で所蔵している吉田茂の手紙をご紹介する企画、ウェブ講座「吉田茂の手紙を読む」の第2回目です。毎月1回、全10回の連載を予定しています。

今回は、昭和27年5月22日及び5月23日付で書かれた谷口直枝子宛吉田茂の手紙2通を読んでいきます。
 ※谷口直枝子については、「ウェブ講座 吉田茂の手紙を読む<ご案内>」をご覧ください。

記事の構成は以下の通り。

【1】釈文(手紙に書いている文字を起こしたもの)
【2】書き下し文(釈文の読み方)
【3】現代語訳
【4】候文について
【5】内容解説

また、下記のPDFに印刷用のテキストもありますので、ご活用ください。

吉田茂の手紙を読む<第2回印刷用テキスト>(PDFファイル:919.3KB)

 

昭和27年5月22日付 谷口直枝子宛 吉田茂書簡

昭和27年5月22日付谷口直枝子宛吉田茂書簡(1)
昭和27年5月22日付谷口直枝子宛吉田茂書簡(2)
昭和27年5月22日付谷口直枝子宛吉田茂書簡(3)
【1-1】釈文

拝復

民藝館参観之義、難有存候、柳氏及山梨大将の都合を伺、明廿三日午後三時頃参度、唯今両氏の都合尋居候、当邸花もの満開ニ有之、又来月週末毎ニ箱根コワキ谷三井別邸借入参候、御来遊奉侍候、不取敢御答迄、草々敬具

          吉田茂

谷口御奥様

      御前

 

【2-1】書き下し文

拝復

民藝館参観の義(ぎ)、有難(ありがた)く存(ぞん)じ候(そうろう)、柳氏及山梨大将の都合を伺い、明廿(にじゅう)三日午後三時頃参りたく、唯今(ただいま)両氏の都合尋ね居(お)り候、当邸花もの満開ニ之(これ)有(あ)り、又(また)来月週末毎(ごと)ニ箱根コワキ谷三井別邸借入参り候、御来遊侍(はべ)り奉(たてまつ)り候、取敢(とりあ)えず御答迄(まで)、草々敬具

           吉田茂

谷口御奥様

      御前

 

【3-1】現代語訳

拝復

民藝館参観のこと、ありがたく存じます。柳〔宗悦〕氏及び山梨〔勝之進〕大将の都合を伺い、明日二十三日の午後三時頃お伺いしたく、ただいま両氏の都合を聞いております。私の家では花が満開です。また来月週末ごとに箱根小涌谷の三井別邸を借り入れております。遊びにいらしてください。とりあえずお答えまで。 草々敬具

        吉田茂

谷口御奥様

      御前

 

昭和27年5月23日付 谷口直枝子宛 吉田茂書簡

昭和27年5月23日付谷口直枝子宛吉田茂書簡(1)
昭和27年5月23日付谷口直枝子宛吉田茂書簡(2)
昭和27年5月23日付谷口直枝子宛吉田茂書簡(3)
【1-2】釈文

拝啓

本日の民藝館参観も大ニわかつたような勉強になつたような気か仕候、御礼申上候、之より大磯ニ帰へり候、柳様ヘハ、あなた様より宜敷御伝声奉願候、御礼之印まてニ到来もの持参被為致御笑納可被下候、匆々不一

  五月廿三日夕

         吉田茂

谷口御奥様

     御前

【2-2】書き下し文

拝啓

本日の民藝館参観も大いにわかったような勉強になったような気が仕(つかまつ)り候(そうろう)、御礼申し上げ候、之(これ)より大磯に帰えり候、柳様へは、あなた様より宜しく御伝声願い奉(たてまつ)り候、御礼の印までに到来もの持参致せられ御笑納下さるべく候、匆々不一

五月廿(にじゅう)三日夕

         吉田茂

谷口御奥様

      御前

【3-2】現代語訳

拝啓

本日の民藝館参観も大いにわかったような勉強になったような気が致します。お礼申し上げます。これより大磯に帰ります。柳〔宗悦〕様へは、あなた様よりよろしくお伝えくださいますようお願い申します。お礼の印として頂き物を持参させます。ご笑納ください。匆々不一

 五月二十三日夕

          吉田茂

谷口御奥様

     御前

 

【4】候文(そうろうぶん)について

吉田茂の書簡は、現代の私たちが使っている文体とは異なり、和文と漢文体が混ざっている和漢混合文で、かつ文末に「候」を使用する「候文(そうろうぶん)」で書かれています。これらは、江戸時代の古文書などを読む際によくでてくる文体で、「候」は「です。」「ます。」という意味で、文の末尾に使われます。

「候」は、文中に頻出するため、省略形で書かれることが多く、ほぼ点に近い形となることもあります。吉田の書簡でも、様々なバリエーションで「候」が書かれています。

どこに「候」が隠れているか、一度吉田の書簡から探し出してみてください。
(印刷用のテキストには、今回ご紹介している吉田の書簡から「候」を抽出して、例示しています。)

点や線の一部として書かれた「候」を読むことは、容易ではありませんが、古文書独特のリズムに慣れていけば、候文も読めるようになります。まずは、文章を音読して、文のリズムをつかむことが習熟への近道です。

 

【5】内容解説

今回ご紹介する書簡2通は、柳宗悦(1889-1961)が創設し、館長を務めた日本民藝館に、昭和27年5月、吉田茂と山梨勝之進、柳宗悦が連れ立って来訪した際のものです。吉田茂が書簡を送った谷口直枝子は、柳の実の姉で、書簡からは、谷口夫人が吉田と柳の交流を取り持っていたことがうかがえます。

柳宗悦は、民芸運動を主導した文化人として知られた人物です。現在では、「民芸」「民芸品」など私たちも何気なく使っていますが、この「民芸」という言葉を創作したのが、柳です。吉田が訪れた柳の日本民藝館は、柳が収集した民芸品を展示するための施設で、昭和11年に開館しました。柳の提唱する「民芸品」とは、「民衆的工芸品」のことで、民衆が使用するようなごくありふれた工芸品のなかに、簡素な美しさが宿っているという柳独自の考えが「民芸」という言葉には込められています。

よく「貴族趣味」だと言われた吉田の民藝館来訪の感想はというと、「大いにわかったような、勉強になったような気が致します」というもので、本当にわかっているのかどうか、ちょっと曖昧な印象を受けますが、決して美辞麗句を並べないあたりに、吉田の率直さが出ているといもいえます。

ちなみに、吉田と一緒に民藝館を訪れた山梨勝之進(1877-1967)は、海軍中将を務めた人物で、戦後吉田とも交流がありました。

※参考文献:柳宗悦『民藝とは何か』講談社学術文庫、平成18年(原本は昭和16年、昭和書房より発行)

 

次回予告

次回は、8月3日(火曜日)更新予定です。今回も吉田の書簡に登場した「仕候」「存候」「御座候」など、よく出てくる「候」の定型文についてご紹介します。

この記事に関するお問い合わせ先

教育委員会 教育部 生涯学習課 旧吉田茂邸(郷土資料館別館)
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